「日本の良いものは、
正当に評価されていない。」

ーまずは、このプロジェクトに参加された理由を教えてください。

2つあって。
ひとつは、日本って良いものがいっぱいあるんだけど、
きちんと評価されていないものがたくさんあるじゃないですか。
例えばいろんな地方に行ったら
「なんでこの値段でこれ売ってるんだろう?」
っていうものが売ってたりしますよね。
それがぼくは正しくないなと思っていて、
なんとかしたいと考えていました。
佐賀のイカは、美味しくてもっと知られていいものなのに、
九州以外ではまだまだ知られていない。
本来の価値と見合っていないわけです。
とはいえイカは養殖も難しく、生きたまま運ぶのも大変。
だから東京ではなかなか食べられない。
そういったあまり知られていないものを
世に出したいと思った。それがひとつ。

もうひとつは今回のコンセプト
「透明の証明」という部分ですね。
透明って単語が僕は好きで。

「イカの透明性に、
すごく惹かれました。」

ー呼子イカの透明さに惹かれたということですか?

呼子イカが、何域に対して透明なのかそんなに詳しくないんだけど、
少なくても可視光に対しては透明さを感じるじゃないですか。
赤外光が見れる生き物にとっては透明じゃないかもしれないし、
紫外光まで見える生き物にとっては透明じゃないかもしれない。
そもそも深海に住んでいる生き物は目を使わないから、
透明ってことに意味なんてないのかもしれないんだけど。

僕はディスプレイとか、網膜とか、空間に光がどう飛んでいるかとか、
そういったことに非常に興味がある。
だからイカの透明性にすごく惹かれたんです。
深海に住んでたり、でも結構水面近くまで来たり、すごく目が大きかったり。
いろんな特徴がいっぱいありながら、
それでいて透明なイカって、興味あるなと思いましたね。

「透明な姿から、
着色していくのが面白い。」

ーイカの特徴のひとつに、色変化があります。

カメレオンのように体の色を変えるとか、
ヤドクガエルのように毒がありそうな色をしているとか、
そういったことは自然界にはよくあると思うんです。
でも色が別の色に変わるんじゃなくて、
普段は透明でそこから着色するっていうのが
すごく面白いなと思います。
僕は人間にとって「どうやって色がついて見えるのか」
ということに興味がある。
透明な生き物が泳いでいて、
急に色がフワッと変わると言われたら、
やっぱり面白いなと思いますね。

「透明=ないけどあるもの」と
考えると見えてくるものがある。

ー私たちが普段生きていくなかで触れている、
「透明」なものってあるんでしょうか。

デジタルデータっていうのはほぼ透明ですよね。
だってスマホがないと見えないし、パソコンがないと見えないけど、
いつスマホをOFFにしてもデータは存在するわけで。
検索データ、SNSデータ、地図データみたいなものは
スマホを見ないと確認ができないかもしれないけど、ある。
ないけどあるものっていうのはすごく面白くて。
僕はデータとか情報とか、関係性とか数式で
表現されるとか、機械学習で表現されたり
生データの出し方で表現されたりするものに対して、
どういう意味でそこにあるのかっていうことが気になる人間。

またそれとは反対に、物質的に透明であることに対する
愛着っていうのもあります。
例えばデータをイメージしてくださいって言われたら
透明なものをイメージできないけど、
ガラスを見せられれば存在として理解できる。
鏡とかレンズとか透明体とかガラスとかも好きですね。

「違うデータで表現されたものが、
本質に近いこともある。」

ー普通の人の目には見えない「透明」なものが
落合さんには見えているんじゃないかなという風に思えます。

僕は波が好きなんですよね。
電磁波とか超音波とか可視光線とか。
ホログラム(位相差がついた波)をどうやって記録するか、
出力するかっていうのをコンピューターで計算する
計算機ホログラムという分野で僕は博士号をとっています。
1980年代からわりと研究はされていて、
計算機ホログラムがコンピュータで処理できるようになった。
例えば超音波集めてみたりとか、
光集めてみたりとか、レーザー集めてみたりとか。
もしくはディスプレイ作ってみたり、
レーダー作ってみたり、Wi-Fiの強度を考えてみたり。
色々なものに応用できるようになったわけです。
そうなってきたときに、普段物質で表現されている
机とか椅子とか色々なもの、
光で表現されているものとは別に、
全然違う波の空間というのがあるのが分かるわけです。

普段写真に撮っているイメージは
普段私たちが見ているイメージに近いから受け入れられるわけで、
本当は全然違うデータで表現されたものが
本質に近いこともあるでしょう。
違う表現形で語られたときに、
それはどういう意味を持つのかということに、
すごく愛着を見出しています。

そういった視点で対象を見ているということが、
僕の特徴的なやり方だと思います。

「人類は透明に対する表現方法を、
あまり知らない。」

ー今回透明をテーマにした「YOBUKO 限りなく透明に近いイカ」という
インスタレーションをプロジェクトしていただきました。

今回のプロジェクトは、透明をテーマにした表現です。
なかなか透明をテーマにした表現って少ないと思います。
まだ人類は透明っていうものに対する表現方法って、
あまり知らないと思うんですね。
透明なものを出力することはできるけど、
透明っていう概念自体をどう表現にするか。
そうなるとなんらかの電子・電気技術的な表現だったりとか、
テクノロジーを入れないと難しいと思います。

そして今回僕は、イカともうちょっと仲良くなりたいと思っていて。
イカって僕のなかでは抽象的な存在だったんです。
その抽象的なものを、音楽とともに、お酒とともに味わって、
作品然とした作品というよりは、イカを考える空間みたいなものを
作るのが面白いなと思ったんですよ。
輪郭を描いて中心を描かない作品というか、
イカをテーマに作品を作るというよりは、
イカをめぐった総合体験を作りました。

「テクノロジーが、
メディア自身を作れるようになった。」

ーメディアアーティストとしても活躍される落合さんですが、
ご自身の作品に対する向き合い方をお聞かせください。

コンテンツを作ることが普通のアートだとしたら、
メディアアートっていうのはコンテンツを作らず、メディアで語るアート。
例えばキャンバスに絵を描いたらコンテンツじゃないですか。
コンテンツを取り除いてキャンバスだけで作品を作るって言ったら、
キャンバスを出した時点でアートでなければならない。
そういった意味ではテクノロジーがメディア自身を
作り出せるようになったことは面白いと思いますね。
それと僕は何かを作る時に、作家性を出そうと思ってやっていない。
イカもやるし、シャボン玉もやるし、鏡もやるし、レンズもやる。
だけど作家性を消そうとしても、作品を並べたら、
僕のことを波が好きな人だって思うと思うんですよ。
作家が作家性を消し去ってもなお、残る表現とは一体何か?
僕はそれを常に考えていて、そういった作品を作るということを、
やたら気合入れてやってますね。

「呼子イカのように、
透明的な体験を。」

ー最後に、イベントに興味を持ってくださっている
方に一言お願いします。

今回のイベントは、呼子イカの周囲にある体験を作りました。
お酒とか演出とか音楽とか器とか。
その全体が呼子イカのように、透明的だったらいいなと思っていて。
そういうものの見せ方の主軸に、
イカが置かれるなんてことは滅多にないですよね。
だからこそ、そういうような考え方が面白いかなと思っています。
来てくださる方には、味・音・光、空間全体を感じて欲しいですね。

TOP :佐賀県×落合陽一 YOBUKO 限りなく透明に近いイカ